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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
寝たのはかれこれ一時。
膳は片附いて、火鉢の火の白いのが果敢ないほど、夜も更けて、寂と寒くなったが、話に実が入ったのと、もう寝よう、もう寝ようで炭も継がず。それでも火の気が便りだから、横坐りに、褄を引合せて肩で押して、灰の中へ露わな肱も落ちるまで、火鉢の縁に凭れかかって、小豆ほどな火を拾う。……湯上りの上、昼間歩行き廻った疲れが出た菅子は、髪も衣紋も、帯も姿も萎えたようで、顔だけは、ほんのりした――麦酒は苦くて嫌い、と葡萄酒を硝子杯に二ツばかりの――酔さえ醒めず、黒目は大きく睫毛が開いて、艶やかに湿って、唇の紅が濡れ輝く。手足は冷えたろうと思うまで、頭に気が籠った様子で、相互の話を留めないのを、余り晩くなっては、また御家来衆が、変にでも思うと不可ませんから、とそれこそ、人に聞えたら変に思われそうな事を、早瀬が云って、それでも夫人のまだ話し飽かないのを、幾度促しても肯入れなかったが……火鉢で隔てて、柔かく乗出していた肩の、衣の裏がするりと辷った時、薄寒そうに、がっくりと頷くと見ると、早急にフイと立つ……。
膝に搦んだ裳が落ちて、蹌踉めく袖が、はらりと、茶棚の傍の襖に当った。