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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
快い、さりながら、強い刺戟を感じて、早瀬が寝られぬ目を開けると、先刻(お休みなさい。)を云った時、菅子がそこへ長襦袢の模様を残した、襖の中途の、人の丈の肩あたりに、幻の花環は、色が薄らいで、花も白澄んだけれども、まだ歴々と瞳に映る。
枕に手を支き、むっくり起きると、あたかもその花環の下、襖の合せ目の処に、残燈の隈かと見えて、薄紫に畳を染めて、例の菫色の手巾が、寂然として落ちたのに心着いた。
薫はさてはそれからと、見る見る、心ゆくばかりに思うと、萌黄に敷いた畳の上に、一簇の菫が咲き競ったようになって、朦朧とした花環の中に、就中輪の大きい、目に立つ花の花片が、ひらひらと動くや否や、立処に羽にかわって、蝶々に化けて、瞳の黒い女の顔が、その同一処にちらちらする。
早瀬は、甘い、香しい、暖かな、とろりとした、春の野に横わる心地で、枕を逆に、掻巻の上へ寝巻の腹ん這になって、蒲団の裙に乗出しながら、頬杖を支いて、恍惚した状にその菫を見ている内、上にたたずむ蝶々と斉しく、花の匂が懐しくなったと見える。
やおら、手を伸して紫の影を引くと、手巾はそのまま手に取れた。