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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
と優しく云って本意なそう。一門の中に、この人ばかり、一人も小児を持たぬ。
三十
姉夫人の、その本意無げな様子を見て、理学士は、ああ、気の毒だと思うと、この人物だけにいっそ口重になって、言訳もしなければ慰めもせずに、希代にニヤリとして黙ってしまう。
と直ぐ出掛けようか、どうしようと、気抜のした姿うら寂しく、姉夫人も言なく、手を掛けていた柱を背に向直って、黒塀越に、雲切れがしたように合歓の散った、日曜の朝の青田を見遣った時、ぶつぶつ騒しい鍋の音。
と見ると、むらむらと湯気が立って、理学士が蓋を取った、がよっぽど腹が空いたと見えて、
「失礼します。」と碗を手にする。
「お待ちなさいまし、煮詰りはしませんか。」
と肉色の絽の長襦袢で、絽縮緬の褄摺る音ない、するすると長火鉢の前へ行って、科よく覗いて見て、
「まあ、辛うござんすよ、これじゃ、」
と銅壺の湯を注して、杓文字で一つ軽く圧えて、
「お装け申しましょう、」と艶麗に云う。
「恐縮ですな。」
と碗を出して、理学士は、道子が、毛一筋も乱れない円髷の艶も溢さず、白粉の濃い襟を据えて、端然とした白襟、薄お納戸のその紗綾形小紋の紋着で、味噌汁を装う白々とした手を、感に堪えて見ていたが、