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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「玉手を労しますな、」

と一代の世辞を云って、嬉しそうに笑って、

「御馳走(とチュウと吸って)これは旨い。」

「人様のもので義理をして。ほほほ、お土産も持って参りません。」

その挨拶もせずに、理学士は箸もつけないで、ごッくごッく。

「非常においしいです。僕は味噌汁と云うものは、塩が辛くなきゃ湯を飲むような味の無いものだとばかり思うたです。今、貴女、干杓に二杯入れたですね。あれは汁を旨く喰わせる禁厭ですかね。」

「はい、お禁厭でございます。」

と云った目のふちに、蕾のような微笑を含んでいたから。

「は、は、は、串戯でしょう。」

「菅子さんに聞いて御覧なさいまし。」

「そう云えば貴女、もうお出掛けなさらなければなりますまいで。」

「は、私はちっとも急ぎませんけれど、今日は名代も兼ねておりますから、疾く参ってお手伝いをいたしませんと、また菅子さんに叱言を言われると不可ません――もうそれでは、若竹座へ参っております時分でしょうね。」

「うんえ、」

頬ばった飯に籠って、変な声。

「道寄をしたですよ。貴女これからおいでなさるなら、早瀬の許へお出でなさい、あすこに居ましょうで。」