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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
「安東村へおともをしたのは……夢ではないのでございますね。」
早瀬は差置かれた胸の手に、圧し殺されて、あたかも呼吸の留るがごとく、その苦を払わんとするように、痩細った手で握って、幾度も口を動かしつつ辛うじて答えた。
「夢ではありません、が、この世の事ではないのです。お、お道さん、毒を、毒を一思いに飲まして下さい。」
と魚の渇けるがごとく悶ゆる白歯に、傾く鬢からこぼるるよと見えて、衝と一片の花が触れた。
颯となった顔を背けて、
「夢でなければ……どうしましょう!」
と道子は崩れたように膝を折って、寝台の端に額を隠した。窓の月は、キラリと笄の艶に光って、雪燈は仄かに玉のごとき頸を照らした。
これより前、看護婦の姿が欄干から消えて、早瀬の病室の扉が堅く鎖されると同時に、裏階子の上へ、ふと顕れた一人の婦があって、堆い前髪にも隠れない、鋭い瞳は、屹と長廊下を射るばかり。それが跫音を密めて来て、隣の空室へ忍んだことを、断って置かねばならぬ。こは道子等の母親である。
――同一事が――同一事が……五晩六晩続いた。
四十五
妙なことが有るもので、夜ごとに、道子が早瀬の病室を出る時間の後れるほど、人こそ替れ、二人ずつの看護婦の、階子段の欄干を離れるのが遅くなった。