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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

と云う時、次の室で泣音がした。続いてすすり泣く声が聞えたが、その真先だったのは、お蔦のこれを結った、髪結のお増であった。芸妓島田は名誉の婦が、いかに、丹精をぬきんでたろう。

上らぬ枕を取交えた、括蒲団に一が沈んで、後毛の乱れさえ、一入の可傷さに、お蔦は薄化粧さえしているのである。

お蔦は恥じてか、見て欲かったか、肩を捻って、髷を真向きに、毛筋も透通るような頸を向けて、なだらかに掛けた小掻巻の膝の辺に、一波打つと、力を入れたらしく寝返りした。

四十七

「似合った、似合った、ああ、島田が佳く出来た。早瀬なんかに分るものか。顔を見せな、さあ。」

とじりりと膝を寄せて、その時、颯と薄桃色の瞼の霑んだ、冷たい顔が、夜の風に戦ぐばかり、蓐の隈に俤立つのを、縁から明取りの月影に透かした酒井が、

「誰か来て蛍籠を外しな、厭な色だ。」

「へへい、」と頓興な、ぼやけた声を出して、め組が継の当った千草色の半股引で、縁側を膝立って来た――婦たちは皆我を忘れて六畳に――中には抱合って泣いているのもあるので、惣助一人三畳の火鉢の傍に、割膝で畏って、歯を喰切った獅噛面は、額に蝋燭の流れぬばかり、絵にある燈台鬼という顔色。