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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

早瀬が目を覚ますと、受持の看護婦が、

「薬は召上りましたか。瓶が落ちて破れておりましたが。」

と注意をしたのは言うまでもなかった。

で、新い瓶がもう来ていたが、この分は平気で服した。

その日燈の点くちと前に、早瀬は帯を緊直して、看護婦を呼んで、

「お世話になりました。お庇様でどうやら助りました。もう退院をしまして宜しいそうで、後の保養は、河野さんの皆さんがいらっしゃる、清水港の方へ来てしてはどうか、と云って下さいますから、参ろうかと思います。何にしても一旦塾の方へ引取りますが、種々用がありますから、人を遣って、内の小使をお呼び下さい。それから、お呼立て申して済みませんが、少々お目に懸りたい事がございます。ちょっとこの室までお運びを願いたい、と河野さんに。……いや、院長さんじゃありません、母屋にいらっしゃる英臣さん。」

「はあ、大先生に……申し上げましょう。」

「どうぞ。ああ、もし、もし、」

と出掛けた白衣の、腰の肥いのを呼留めて、

「御書見中ででもありましたら、御都合に因って、こちらから参りましても可うございますと。」

馴染んでいるから、黙って頷いて室を出て、表階子の方へ跫音がして、それぎり忙しい夕暮の蝉の声。