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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

田舎は律義で、日蝕は日の煩いとて、その影には毒あり、光には魔あり、熱には病ありと言伝える。さらぬだにその年は九分九厘、ほとんど皆既蝕と云うのであった。

早朝日の出の色の、どんよりとしていたのが、そのまま冴えもせず、曇りもせず。鶏卵色に濁りを帯びて、果し無き蒼空にただ一つ。別に他に輝ける日輪があって、あたかもその雛形のごとく、灰色の野山の天に、寂寞として見えた――

風は終日無かった。蒸々と悪気の籠った暑さは、そこらの田舎屋を圧するようで、空気は大磐石に化したるごとく、嬰児の泣音も沈み、鶏の羽さえ羽叩くに懶げで、庇間にかけた階子に留まって、熟と中空を仰ぐのさえ物ありそうな。透間に射し入る日の光は、風に動かぬ粉にも似て、人々の袖に灰を置くよう、身動にも払われず、物蔭にも消えず、細かに濃く引包まれたかの思がして、手足も顔も同じ色の、蝋にも石にも固るか、とばかり次第に息苦しい。

白昼凝って、尽く太陽の黄なるを包む、混沌たる雲の凝固とならんず光景。万有あわや死せんとす、と忌わしき使者の早打、しっきりなく走るは鴉で。黒き礫のごとく、灰色の天狗のごとく乱れ飛ぶ、とこれに驚かされたようになって、大波を打つのは海よ。