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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

五十二

田を行く時、白鷺が驚いて立った。村を出る時、小店の庭の松葉牡丹に、ちらちら一行の影がさした。聯る車は、薄日なれば母衣を払って、手に手にさしかざしたいろいろの日傘に、あたかも五彩の絹を中空に吹き靡かしたごとく、死したる風も颯と涼しく、美女たちの面を払って、久能の麓へ乗附けたが、途中では人一人、行脚の僧にも逢わなかったのである。

蝕あり、変あり、兵あり、乱ある、魔に囲まれた今日の、日の城の黒雲を穿った抜穴の岩に、足がかりを刻んだ様な、久能の石段の下へ着くと、茶店は皆ひしひしと真夜中のごとく戸を鎖して、蜻蛉も飛ばず。白茶けた路ばかり、あかあかと月影を見るように、寂然としているのを見て、大夫人が、

「野蛮だね。」

と嘲笑って、車夫に指揮して、一軒店を開けさして、少時休んで、支度が出来ると、帰りは船だから車は不残帰す事にして、さて大なる花束の糸を解いて、縦に石段に投げかけた七人の裾袂、ひらひらと扇子を使うのが、さながら蝶のひらめくに似て、め組を後押えで、あの、石段にかかった。

が、河野の一族、頂へ上ったら、思いがけない人を見よう。

これより前、相貌堂々として、何等か銅像の揺ぐがごとく、頤に髯長き一個の紳士の、握に銀の色の燦爛たる、太く逞き杖を支いて、ナポレオン帽子の庇深く、額に暗き皺を刻み、満面