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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
けれども、礼之進が今、外へ出たと見ると同時に、明かにその両眼をいた瞳には、一点も睡そうな曇が無い。
惟うに、乗合いの蔭ではあったが、礼之進に目を着けられて、例の(ますます御翻訳で。)を前置きに、(就きましては御縁女儀、)を場処柄も介わず弁じられよう恐があるため、計略ここに出たのであろう。ただしその縁談を嫌ったという形跡はいささかも見当らぬが。
「攫られたのかい。」
「はい、」
と見ると、酒井の向い合わせ、正面を右へ離れて、ちょうどその曲者の立った袖下の処に主税が居て、かく答えた。
「何でございますか、騒ぎです。」
先生の前で、立騒いでは、と控えたが、門生が澄まし込んで冷淡に膝に手を置いているにも係わらず、酒井はずッと立って、脊高く車掌台へ出かけて、ここにも立淀む一団の、弥次の上から、大路へ顔を出した……時であった。
主客顛倒、曲者の手がポカリと飛んで、礼之進の痘痕は砕けた、火の出るよう。
「猿唐人め。」
あろう事か、あっと頬げたを圧えて退る、道学者の襟飾へ、斜かいに肩を突懸けて、横押にぐいと押して、
「何だ、何だ、何だ、何だと? 掏摸だ、盗賊だと……クソを啖え。