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よめとりむことり

嫁取婿取

佐々木 邦

「婦人倶楽部」1929(昭和4)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,654 字 · 175 页

青空文庫

「はあ。心得ました」

と三郎君は異存なかった。

井の頭公園は広い。しかし池が主体だ。二人は岸伝いに歩いた。間もなく山下さんは立止まって、

「三郎」

と声を潜めた。

「はあ」

「いるよ」

「はゝあ。何処ですか?」

「彼処に。池の岸に」

「成程」

と三郎君もお父さんに倣って木の幹を楯に姿を匿した。

「一人だよ」

「煙草をすっています」

「池の鯉でも勘定しているのか、一心不乱だ」

「彼方を向きましたよ」

「待っているんだ。何うも呆れた奴だなあ」

と山下さんは長歎息した。

忽ち俊一君はステッキを挙げて、対岸へ合図をした。

「あれです」

と三郎君が指さした。絹子さんは橋を渡って来るところだった。

「何者だろう?」

と山下さんは目を見張った。

「ダンサーでしょうか?」

「さあ」

「令嬢でしょうか?」

「さあ」

「普通の職業婦人でしょうか?」

と三郎君は相変らず定見がない。

若い二人は相擁さないばかりに寄り添って話を始めた。山下さんは少時打目戍っていた後、三郎君を促して歩き出した。道筋が俊一君と絹子さんの足元に横たわっている。山下さんは池の面を眺めながら近づいた。

「好い景色だ」

と念の為めに言った。