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よめとりむことり
嫁取婿取
佐々木 邦
「婦人倶楽部」1929(昭和4)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,654 字 · 175 页
と山下さんは免れ難い運命のように考えていた。かゝりつけのお医者さんは、
「又ですか? 今度は何方です?」
と訊きながら、気の毒そうな顔をして上り込んだものだった。子供が唯一の屈託だから騒ぎも大きい。熱が三日も続くと、山下さんは会社の仕事を其方退けにして、診察に立ち会う。
「何うでしょう? 大丈夫ですか?」
「流感ですよ」
「チブスや肺炎の徴候は見えませんか?」
と悪い方ばかり考える。山下家の子供は病みつくのも早いが、手当が早いから直るのも早い。医者は斯ういう患家が書き入れだ。その都度命拾いだと思って有難がられる。
或年の暮に山下夫人は、
「あなた、珍らしいことがございますのよ」
と手柄顔に注進した。
「何だい?」
「いつにもないことでございます」
「さあ。何だろう?」
「薬価が唯七円五十銭で済みました」
「ふうむ。然ういえばこの頃は病人の苦労がなくなったね。もうソロ/\病み抜けるんだろう」
「皆大きくなったからですわ」
「それもある。何にしても有難いことだ」
と山下さんは満足だった。薬価は家庭の暗さに正比例する。
末男の英彦君が尋常三年に進んだ頃から、お医者さんと略縁が切れた。