轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
こをつれて
子をつれて
葛西 善蔵
「早稲田文学」1918(大正7)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,970 字 · 34 页
……と彼は、ハッとした態で、あぶなく鑵を取落しそうにした。そして忽ち今までの嬉しげだった顔が、急に悄げ垂れた、苦いような悲しげな顔になって、絶望的な太息を漏らしたのであった。
それは、その如何にも新らしい快よい光輝を放っている山本山正味百二十匁入りのブリキの鑵に、レッテルの貼られた後ろの方に、大きな凹みが二箇所というもの、出来ていたのであった。何物かへ強く打つけたか、何物かで強く打ったかとしか思われない、ひどい凹みであった。やがて、当然、彼の頭の中に、これを送った処のYという人間が浮んで来た。あの明確な頭脳の、旺盛な精力の、如何なる運命をも肯定して驀地らに未来の目標に向って突進しようという勇敢な人道主義者――、常に異常な注意力と打算力とを以て自己の周囲を視廻し、そして自己に不利益と見えたものは天上の星と雖も除き去らずには措かぬという強猛な感情家のY、――併し彼は如何に猜疑心を逞しゅうして考えて見ても、まさかYが故意に、彼を辱しめる為めに送って寄越したのだとは、彼にも考えることが出来なかった。……それは余りに理由ないことであった。
「何しろ身分が身分なんだから、それは大したものに違いなかろうからな、一々開けて検べて見るなんて出来た訳のものではなかろう。