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こをうばう
子を奪う
豊島 与志雄
「中央公論」1921(大正10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 页
そう彼は考えた。愛は誰か一人を護ることではなくて、凡ての者の運命を正しくなすことだ!
彼は早くその日が来るのを待った。じりじりした日を送った。然し敏子からは何とも返事がなかった。幾代も別に催促に行く風もなかった。兼子も落付き払っていた。そして彼女等は、温泉旅行の夢想を捨てて、新らしい夢想を描き出していた。子供を中心にして、種々な計画がめぐらされた。先ず第一は玩具であった。珍らしい玩具が沢山物色せられた。それも実際玩具屋に行って見て来た物でなくて、彼女等の頭でありそうに想像された物だった。中には座敷の中で火をたいて湯が沸せるような、小さな世帯道具まであった。「火を弄らせるのは危ないから止しましょう、」と幾代は云った。第二は遊覧場所だった。公園、動物園、植物園、観音様、郊外の野原……地図の上に赤鉛筆で印がつけられた。活動や寄席は小さな子にはどうだろうか、それが問題として残っていた。第三には着物のことだった。余り贅沢をさせてはいけないということに、二人の意見は一致した。けれど地色や柄は、子供の顔立に似合うものでなければならなかった。それには肝腎の顔立がよく分らなかった。