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こをうばう
子を奪う
豊島 与志雄
「中央公論」1921(大正10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 页
「なぜあの子を抱こうとなさらないの。まるで他人の子のようですわ。」
彼は何とも答えられなかった。二人は暫く黙っていた。
「僕は変な気がする。」と彼は云った。
「何が?」
「あの子が本当に自分の子だかどうだか分らないような気がする。」
兼子はじっと彼の顔を見た。それから云った。
「あなたによく似てますわ。それに、あんなによくお母様に馴れてるんですもの。」
それは何も理由にはならない、と彼は思った。それでも彼は依子の方へ歩いていった。依子は敏子と幾代とに代る交る縋りつきながら、綺麗な松葉を拾っては箱の中に入れていた。房々と垂れた髪の下に、曇りない広い額が半ば隠されていた。大きな眼玉が溌溂と動いていた。先だけがぽつりと高い団子鼻が、豊かな頬の間に狭まれていた。口がわりに大きく、※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)が短かかった。――これが俺に似てるのか、と彼は考えた。抱いてみようという気も起らなかった。皆を其処に残して、ふいと家の中へはいっていった。
然し書斎に坐ってみると、どうしてもじっと落付けなかった。彼はまた階下の縁側へ出て来た。それからまた二階に上った。