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こども・こども・こどものモスクワ

子供・子供・子供のモスクワ

宮本 百合子

「改造」1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,440 字 · 33 页

青空文庫

ソヴェトではいかに文字が実際生活の理解、建設に必須な武器かということは、一ヵ月この驚くべく前進的で柔軟性に富んだ多面な新社会の中に生活して見れば忽ちわかる。

たとえば日本女は小説を書くのが本職である。だから、未来に於てソヴェトの芸術が生れるだろう畑に興味を感じ、「鎌と槌」鉄工場の工場新聞出版室内の文芸研究部へ出かけたとする。

袋をかぶせたタイプライターが一台ある。二脚のテーブルといくつかの椅子があって、鋳型職場、旋盤からの若者が四五人八時間の働きを終って楽に坐っている。初歩の文芸部員たちは多くの場合詩人である。

――今日は誰が読むね。

マップからの指導者が、煙草をふかしつつ一同を見渡す。

――君か?

白いさっぱりしたシャツの胸を闊達にひろげて着たちぢれ毛のコムソモールは、ちょっと顔を赧らめ、

――いや。

と云った。

――何にもないんです。

――ポケットの中を見せ給え。

どっと笑う。

――さあ、どうしたんだ? アーシャ! じゃあ、君読んだ、読んだ!

――なおしてないし……自信ないんです。

――ここに自信なんぞ持ってる奴は一人もいないよ。

笑い声の中に立ち上って、がっちりした体にコバルト色シャツのアーシャが、抑揚は本もののプロレタリアート詩人らしい弾力で、原稿を読みあげる。