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しきのついおく

子規の追憶

寺田 寅彦

「日本及日本人 第一六〇号」1928(昭和3)年9月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,861 字 · 4 页

青空文庫

二

とにかく、文学者と称する階級の中で、科学的な事柄に興味を有ち得る人と有ち得ない人とを区別する事が出来るとしたら子規はその前者に属する方であったらしい。この事は子規という人とその作品を研究する際に考慮に加えてもいいことではないかと思う。

二

学芸の純粋な進展に対して社会的の拘束が与える障害について不満の意を洩らすのを聞かされた事も一度や二度ではなかったように記憶する。例えば美術や音楽の方面においていわゆる官学派の民間派に対する圧迫といったようなことについて、具体的の実例をあげていわゆる官僚的元老の横暴を語るのであったが、それがただ冷静な客観的の噂話でなくて、かなり興奮した主観的な憤懣を流出させるのであった。どういう方面からそういう材料を得ていたかまたその材料がどれだけ真に近いものであったかは自分には全然分らない。しかし故人がそういう方面の内幕話に興味を有ち、またそういう材料の供給者を有っていた事はたしかである。

子規は世の中をうまく渡って行く芸術家や学者に対する反感を抱くと同時に、また自分に親しい芸術家や学者が世の中をうまく渡る事が出来なくて不遇に苦しんでいるのを歯痒く思っていたかのように私には感ぜられる。