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しきのついおく

子規の追憶

寺田 寅彦

「日本及日本人 第一六〇号」1928(昭和3)年9月19日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,861 字 · 4 页

青空文庫

図の左半は比較的込み入っていて、不折邸附近の行きづまり横町が克明に描かれ「不折」「浅井」両家の位置が記入されている。面白いことは横町の入口の両脇の角に「ユヤ」「床ヤ」と書いてある。それから不折邸の横に「上根岸四十番」と記し、その右に大きな華表を画いて「三島神社」としてある。ずっと下の方に門を書いて、「正門」としてあるのは前田邸の正門であろう。

脚腰の立たない横に寝たきりの子規氏の頭脳の中にかなり明確に保存されていた根岸の地理の一つの映像としてこれも面白いものの一つであろうと思う。この辺も区劃整理で昔の形が消えてしまうかどうか知りたいものである。

今久し振りにこの図を取出して見ていると三十年前の子規庵の光景がありありと思い出される。御院殿坂に鳴く蜩の声や邸後を通過する列車の騒音を聞くような心持がする。

(昭和三年九月『日本及日本人』)