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きせつのあじ

季節の味

佐藤 垢石

「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,046 字 · 7 页

青空文庫

漁獲の多いことが味の季節ではない。その頃の鯛は麦藁鯛といって、産卵後の最も味の劣っている時である。

また鮎も、九月下旬から十月へかけて最も漁獲が沢山ある。これを落ち鮎、鯖鮎、芋殻鮎などといって、奥山から渓水と共に流れきたった落葉と共に、簗へ落ち込むのである。産卵のために下流へ向かう鮎は、盛期である七、八月頃の味に比べれば格段劣っている。秋の季節に多く口に入るから、鮎は腹に子を持ったものが最もおいしいと、世人は間違ったことをいう。

さて、動物の味の季節はいつであろうか。動物には必ず一年に一度、性の使命を果たさねばならぬ季節がある。即ち春機の発動である。まれに、年に二回三回と催すものもあるがそれは例外で、年一回が普通であろう。その生殖の期と、味の季節の頂上とがいつも一致すると考えていい。

十一月初旬から江戸前で釣れる鰡についてみると一番分かる。十二月下旬になって産卵のため外洋へ出る途中の東京湾口で釣れたものは味が落ちる。それは腹に子を持ったからである。江戸前の大鰡で腹に子のない十月下旬から十一月中旬が最もおいしいのである。からだ中の脂肪が生殖腺に吸収されてしまわないからである。