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きせつのあじ

季節の味

佐藤 垢石

「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,046 字 · 7 页

青空文庫

十六、七年も海へ帰らぬものもあるが、それは棲息場所の状態によってであるから例外である。産卵のため海へ帰って行く、その下り鰻というのがうまい。からだが熟成して肉が張りきっているからである。江戸前の鰻がいい、というのもそこに関係がある。月島周りや台場周りには、荒川の上流から下ってきて、遠い深海へ生殖に行く鰻が、居付きの鰻と交わって漁れるからである。江戸前も、近年水が変わって上等の鰻がとれなくなった。それは荒川放水路ができて、王子地先から荒川の水を中川下の水ミヨの方へ落とすようになってから、月島、台場周りの水が綺麗になりすぎたためである。即ち、大川や隅田川が東京湾の入江のような姿となってしまって、淡水が江戸前へ出てこないので立派な鰻が足を止めなくなったのである。

関東地方で最もおいしい鰻のとれるのは水戸の那珂川である。甲州石和町から上流の笛吹川の底石の間に棲んでいる蟹食鰻も上等である。これも生殖力発生前の充分肉が張ったものが多いからであろう。

鰻は盛夏の候の味をよしとしない。秋の下り鰻を冬まで持ち越して料理するに限る。養殖鰻は六、七十匁の大物でも、性を感じていまい。