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こどくしゃのあい

孤独者の愛

豊島 与志雄

「世界春秋」1950(昭和25)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,723 字 · 18 页

青空文庫

だが家庭では、いろいろ恥しいことがあるだろうし、極り悪いことがあるだろう。それで私は結婚については、私には理想がありますし、理想にかなう相手が見つかるまでは結婚はしません、と言い遁れてきた。理想、そんなものは実は一つだってありはしない。考えてみれば、寒々とした淋しい日々だ。

胸のどこかを金槌でことりと叩かれたような思いで、私は澄江の顔を見返した。

「僕が一人っ子だってこと、どこで分る?」

「なんだか……静かで、そして淋しそうですもの。」

こんどは、顔色も変えず、精一杯のような真剣さだ。

「そんなことを言えば、君だって……一人っ子なんだろう。」

言ってから、私は顔が紅くなるのを感じた。

彼女は返事をしなかった。私も口を噤んで、杯を取り上げた。それから、あまり口は利かなかったが、互に杯のやりとりをしながら、自然に、そして大胆に、何度か眼と眼を見合った。

これだけのことで、二人が愛し合ったと言えば、なんだかばかげてるようだ。然し、愛情の契機なんて、たいてい些細なものである。一人っ子などと、私たちは下らないことを言ったものだが、どちらも顔を紅らめたのがいけなかった。