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あんごじんせいあんない

安吾人生案内

坂口 安吾

05 その五 衆生開眼

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,941 字 · 43 页

青空文庫

大新聞以外の出版資本は、他産業にくらべて資本の基底が浅く、無名または風変りの作家を売り出して、大損か大もうけかのカケを試みる冒険力をもっていない。宣伝費も割り安で当たり外れのハバの小さい作家にたよって、そう大づかみでなくとも、確実な利益を得る近道を行くよりほか、資本の安全の保証はない。かくして人気作家が生れ、追求が集中し、使いつぶされる。大げさに言えば、林さんの死は、こんな日本の出版資本の特性の犠牲であろう。

身を処することに思慮深い林さんが、このウズマキの真中に入ったのは、全く、自分の肉体力に対する過信からだった。事実林さんは、もろ/\の破壊力とたゝかいながら、よく感性の枯渇からまもり、いくつかの傑作をかいた。戦後の「雨」「晩菊」「浮雲」など、前期の林さんのもたなかった思想性をもちはじめている。中でも「浮雲」は、敗戦に対する日本人の偽りない心情告白の書として、後世にのこる意味をもっていると思う。

こんな公式な感想とは別に、私の眼底には、氏が二十三歳で、私が二十二歳だったころのシオたれたメイセン姿が浮かぶ。私たちはよく二人で電車賃がないまゝに世田谷の奥から本郷の雑誌社まで歩いた。