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あんごじんせいあんない

安吾人生案内

坂口 安吾

06 その六 暗い哉 東洋よ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,066 字 · 26 页

青空文庫

実に人々はそれを彼の無邪気さと云い、彼の底なしのウヌボレ。額面通り大先生が賤の女を愛すとはエライことだ、汝幸せな女よ、と言うであろう。そして、彼の一人ぎめの大そうな名誉が自分に配給されてるそうだが、切実な老後に対する保証は一ツもない。

それというのも、自分が彼の一筆を十七年間も肌身はなさず持っていたなどゝ云いだしたのが事の起りであると思えば、要するに彼によって救われ、安定を与えられ、死しても瞑すべき名誉を与えられ、いわば、先生の無邪気というもののイケニエにあげられた観あるのも、身からでたサビである。誰を恨む由もない。

切実な生活問題が解決し、生活の安定を得たのは先生だけで、菊乃さんは救われもしないし、安定してもいないのだ。

集まる門下生は先生同様無邪気で、単に快く王様をかこむ雰囲気にとけこむだけであったろう。先生の一人ぎめの晩香になりきって見せ、先生が思いこんでいるように、先生によって救われ安定を得た賤の女として、しかも古の殿様との同席にも堪えうるような利巧者になりきって見せ、満足の様子もして見せなければならぬ。こういう生活の負担がどんなにやりきれないものか、先生には全然お分りにならないのだから、助からない。