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あんごこうだん

安吾巷談

坂口 安吾

05 湯の町エレジー

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,128 字 · 23 页

青空文庫

熱海にくらべれば、私のすむ伊東温泉などは物の数ではない。それでも時折は、こんな奥まで死ににくる人が絶えない。もっと奥へ行く人もある。風船バクダンの博士は、はるか伊豆南端まで南下し、再び北上して、天城山麓の海を見おろす松林の絶勝の地で心中していた。風船バクダン博士という肩書にもよるかも知れぬが、この心中屍体に対しては、土地の人々の取扱は鄭重をきわめたそうである。一つには、地域的な関係もある。

心中も、伊東までは全然ダメだ。誰も大切にしてくれない。伊東を越して南下して、富戸から南の海へかけて飛びこむと、実に鄭重な扱いをしてくれるそうだ。

水屍体をあげると大漁があるという迷信のせいである。現に大漁の真ッ最中でも、屍体があがると、漁をほッたらかして、オカへ戻り鄭重に回向して葬るそうだ。さらにより大いなる大漁を信じているからだという。富戸という漁村は水屍体を鄭重に葬ることには歴史があって、頼朝が蛭ヶ小島に流されていたとき伊東祐親の娘八重子と通じて千鶴丸をもうけたが、祐親は平氏に親しんでいたから、幼児を松川の淵へ棄てさせてしまった。稚児の屍体は海へ流れて、辿りついたのが富戸の断崖の海岸だ。