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あんごこうだん

安吾巷談

坂口 安吾

06 東京ジャングル探検

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,016 字 · 48 页

青空文庫

「イエ、ぼく必ず払う。明日の朝七時。ここで払う」

と男は胸をそらして威張ったが、呂律がまわらず、ヨロメキつづけている。今の約束も明朝忘れているだろう。

女もこれ以上ガン張るのは不利と見たらしく、

「たった百円ですからね。よろしい。この人を信用しましょう。私は信用してひきとりますから、この人のカバンを探してあげて下さい」

そう云ったから帰るかと思うとそうでもない。帰りそうにしては、険しい顔をキッと押し立てて、

「この名刺を信用して、ひきとりますが、この人のカバンを探してあげて下さい。たのみますよ」

今度は男のカバンを探してくれということをシツコク言いだして、いかにもそれも押しつけるように、たのみますよ、とくりかえす。

その執拗さに巡査も腹を立てて、

「君のカバンでもないのに、何をしつこく頼むことがあるか。君に頼まれなくとも、我々はそれが職務だから、余計な世話をやかずに、用がすんだら、ひきとりたまえ」

「カバンを失くして気の毒だからさ。じゃ、百円、あすここへ届けて下さい」

と悍馬のような鼻息で、女はひきあげた。

ところが、それから二三十分すると、交番の四五間横の駅の玄関の柱に、女が何か大事そうに抱えて、交番の巡査にこれ見よがしにたたずんでいるのである。