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あんごしんにほんふどき

安吾新日本風土記

坂口 安吾

02 第一回 高千穂に冬雨ふれり≪宮崎県の巻≫

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,371 字 · 34 页

青空文庫

この山中ですら独特の顔を見ることができないほど日本全土に顔が交流しているということは、私にとっては力強い発見でもあった。こんなことも日本の歴史を見る目の基礎として重要な一ツだろうと思ったのだ。独特な顔はむしろ思わぬひらけたところにたとえば練馬のような東京近郊に小区域があったりするが、日本の顔はおしなべてほぼ完全な交流を経てきていると見てよいようだ。私は今後の旅行にも人間の顔には特に注意を怠らぬつもりであるが、日向ではむしろ海手の方に日向的な顔がのこっているようだった。しかし日向的な顔というものも、大きく云えば九州的な顔として総括できるものであるし、それはまた日本的な顔として他にその類似を認めることもできるものだ。

私たちが高千穂を出発するとき、この旅行ではじめての雨がふりだしていた。山中であるから、雨がふるとさすがに寒い。私は下痢で悩んでいたので、熊本まで五時間のバスの中で便意を催したらどうしたらいいのかと人に云えない苦労のために意気銷沈していたのである。

「阿蘇の方では雪かも知れません」

雨中にバスまで見送ってくれた古老が云った。私はこのへんでも雪という言葉があるということに――それは当然なことであるにも拘らず、ふと胸をつかれたのである。