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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

李剛 (低声に)人気者は気骨が折れると諦めるさ。

安重根 先生は冷淡です。僕がこんなに苦しんでいるのに、すこしも同情を持とうとしない。誰も僕のことなんかこれっぽっちも考えてはいないんです。なんでもいいから、一日も早く僕が伊藤を殺しさえすれば、それでみんな満足するんでしょう。だから、やれ決死の士だの、やれ、韓国独立の犠牲だのと、さんざん空虚な美名で僕を祭り上げて、寄って集って僕を押し出して、この手で伊藤を殺させようとしているんです。(独語)誰がその手に乗るもんか。

李剛 (不思議そうに)君は何を苦しんでいるのかね。

安重根 (仰向けに寝転ぶ)人間なんて滑稽なもんですねえ。以前は私なんかに洟も引っかけなかった連中まで、一度今度の計画が知れると、まるで手の平を返すように、どこへ行っても別扱いです。みんな十年の知己のように馴々しく手を差し伸べて来るか、さもなければ、まるで仏像でも見るような眼をします。それが私には、死者に対する冷い尊敬と、一種の憐愍の情のようにしか打って来ないんです――たまりません!

李剛 (平静に)はっはっは、君の言うことを聞いていると、まるで他人の命令で、今度のことを思いついたように聞えるが、すくなくとも僕だけは、はじめから反対だったのだからねえ。