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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

叩戸といっしょにドアを蹴り開けて、蔡家溝駅駐在セミン軍曹と部下四五人が、支那人ボウイを案内に荒々しく踏み込んで来る。

軍曹 (大喝)起きろ! 検査だ!

安重根と禹徳淳は起き上る。劉東夏は椅子を離れて直立する。兵卒たちは早くも室内を歩き廻って、衣類や手廻品に触れてみている。

安重根 何だ。夜中に他人の部屋へどなり込んで来るやつがあるか。何の検査だ。

軍曹 (大声に)何だと? 生意気言うな。何の検査でもよいっ! 日本の高官が当駅を御通過になるので失礼のないように固めているんだ。(安重根へ進んで)貴様は何者か。

禹徳淳 (急いで寝台を下りて)済みません。わたくしどもは飴屋でございます。こいつは宵の口に一杯呑って酔っておりますんで、とんだ失礼を申し上げました。(懸命に安重根へ眼配せする)

軍曹 飴屋か。道具はどこにある、道具は。

禹徳淳 はい。道具は、預けてございます。

軍曹 どこに預けてあるのか。

禹徳淳 この町の親方のところに預けてございます。

軍曹 たしかにそうだな。嘘をつくと承知せんぞ。儲かるか。

禹徳淳 へ?

軍曹 飴屋は儲かるかと訊いているんだ。

軍曹は安重根を白眼みつけて、部下を纏めてさっさと出て行く。