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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

が、誰も気がつかない。

女一 (禹徳淳へ低声に)ちょっと此室を貸して下さいね。

侵入者一同は部屋の三人に頓着なくささやき続ける。

男一 いや、あわてた、あわてた。眼も当てられやしない。

女二 サアシャさんはやられたらしいわね。

男二 ざまったらないよ。今夜にかぎってばかに脅かしやがる。

女三 えらい人が汽車で通るからって、家の中で何をしようとかまわないじゃないのねえ。

男三 憲兵のやつ何か感違いしてるらしいんだ。とんだ災難だよ。

女一 (耳を澄まして)しっ!

口に指を当てる。ドアが細く開いてホテルの主人ヤアフネンコの禿頭が現れる。

女一 あら、ヤアフネンコのお父つぁん、もう大丈夫?

ヤアフネンコ やれやれ、一組挙げて帰ったらしいよ。そっと部屋へ帰んな。静かに――いいか、静かにな。

女たちは銘めいの男を伴って音を忍ばせて出て行く。

ヤアフネンコ (ドアから顔だけ入れて)お騒がせしましたな。はい、お休みなさい。

禹徳淳 (安重根が着がえしたのに気づいて愕く)なんだい、今からそんな物を着込んで。(駈け寄る)どこへ行くんだ?

安重根 (着がえを済まして)おれは嫌だよ。(戸口へ進む)ハルビンへ帰るんだ。