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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

禹徳淳 (血相を変えて追い停めようとする)安重根! 君――なにを馬鹿な!

安重根 何をするんだ! (振り払う)

禹徳淳 (激昂して)貴様、貴様――変節したな。裏切るつもりか。

安重根 (ドアの前で振り返って、静かに)変節も裏切りもしない。おれはただ、もう伊藤を殺してしまったような気がするだけだ。

禹徳淳 (呆然と佇立していたが、気がついたように戸口へよろめいて立ち塞がる)それは何のことだ。

安重根 (冷然と)伊藤を殺してしまったような気がして、淋しくて仕様がないんだ。僕はハルビンへ帰るよ。

禹徳淳 ようし! (怒りに顫えて掴みかかろうとし、どなる)卑怯者! 卑怯だ。こいつ――!

安重根 (禹徳淳の手を抑えて一語ずつ力強く)徳淳! いいか、伊藤は、おれの伊藤だぞ。おれだけの伊藤だぞ。殺るならおれ自身やらなくちゃならない必要があってやるんだ。が――。

禹徳淳 (じっと睨んで)詭弁を弄すな、詭弁を。

安重根 殺そうと生かそうとおれの伊藤なんだ。おれがあいつを殺すと言い出した以上、今度は、助けるのもおれの権利にある。おれはあいつを生かしておこう! 殺すと同じ意味で助けるのだ!