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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

『馬鹿にはにかんじゃったな――そんな人柄じゃあるめえ』

などと、玉汗と私はからかったが、銀平は真面目な顔で、

『おれは不得手だ』

と呟くのである。

もっとものことだ。駄洒落みたいな発句と妙な字をぬたくらせた短冊を、自分たちにしたところが、それを持って役場や学校の玄関へ立てるだろうか。どんなに押しの強い人間でも、これを買ってくださいとは言えぬ。無理もない。

『勇気が出ないか』

『駄目だ。売り捌きの方は免職させてくれ』

『そうだろう。僕なら一層駄目だと思うよ』

私は、銀平を慰めた。すると、銀平の顔は俄に明るくなった。

『やむを得ない。まあ一つくらい素通りしても、これから、いくらでも学校や役場はあるはずだ。しかし、この次は頑張ってくれ小池君。でないとこの十枚の短冊が無駄になるのはかまわないとしても、愚図々々していると胃袋の虫が承知しなくなる』

居候関係は、高崎をたつと同時に一応解消して、三人は平等の人間になったようなものの、玉汗の言葉は依然として重きをなしていた。

四

碓氷峠の登り口、坂本の宿へはまだ一、二里あろうという二軒在家の村へついたとき、もう浅春の陽はとっぷりと暮れていた。