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たぬきじる
完本 たぬき汁
佐藤 垢石
佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页
玉汗も、銀平もべそを掻いている。校長先生はそれをみて気の毒になったらしい。
『まあ俳句はどうでもいいが、こんなに暗くなってから碓氷峠を越す気かい。越せまいな――そこでどうだ。こんなせまいところで辛抱する気なら、こん夜ここへ泊まっていったらどうだい』
まことに、予期に反した親切な言葉である。三人は口を揃えて、
『はい』
と何の猶予も、考慮の風もなく、声を返すように答えた。
『そうだろう。急ぐ旅でもなさそうだ』
そのときほど嬉しかったことを、かつて経験しない。恐らくこれから先もあるまいと思った。
三人は、足袋の埃を叩いて座敷へ上がった。校長先生は、小型の南部の鉄瓶から自分で茶をいれてくれた。先生は、茶をのみながら俳論をはじめた。ところが静かに聞いてみると、校長先生は私らよりも、よほど造詣が深かった。私らは感服して、首を前へ傾げた。
が、私はそれから二、三十分たつと自分の胃袋が、ぐつぐつと鳴るのを聞いた。胃袋が鳴るのに気がつくと、頭がじんじんするほど空腹を感じてきた。まことに相済まぬことだが、そうなると先生の声が耳へうつろに響く。
五
――何とか、飯のことを言い出してくれそうなものだな――