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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

鶴岡へきてからの酒井家は表高が十四万石、それに幕府から二万五千石を預けられた十六万五千石の収入のわけであったのだが、南北十里、東西数里にわたるこの庄内平野からの上納米は、酒田の本間家の持ち分を除くにしても、十六、七万石や二十万石のものではなかったであろう。裕に三十万石を超えていたに違いない。

これほど、豊かな鶴岡藩であったから藩士は遊惰に流れ、釣りなど道楽半分に弄ぶのかと思うと、それは大間違いであった。幕府が酒井家を鶴岡に封じた理由は、北方に秋田の佐竹、東に米沢の上杉、遠く仙台の伊達に備え、徳川の四天王の一つとして、親藩たる役目に立たせたのである。だから藩公は武に意を用いた。

釣りを練武の技としたというのは、妙に聞こえるのであるが、これはこの頃いうところの体位向上と、規律の訓練に資したものらしい。鶴岡から、賀茂の港や湯野浜の釣り場までは三里あまりある。藩士は、夜半の丑刻に勢揃いして、竿を担いで釣り場へ駆足訓練をした。もちろん、藩公が先導であった。

そして、武士一同は巖上に立って日本海の暁の気を吸い、さらに朝陽を浴びて、朝めし前には鶴岡へ帰りついていた。