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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

と言って四角の封筒から一枚の写真を出して、卓袱台の上へ置いた。私はそれを取ってみた。ところが、私が想像していたところの妹さん――いやこの兄さんには少しも似ていない。鼻筋が通って、丸い顔が色白く写っている。写真のことであるから背丈のことは分からないが、和服に袴がよく似合って、七三におとなしく分けた頭髪はつつましやかに年より若く見える。写真屋がうまくこしらえたところもあろうけれど、これなら満更でもないと私は眺め入った。

『随分美しいお方じゃありませんか』

私は感心した風に言った。

『いいえ、お恥ずかしいのです』

と、森山さんは答えたけれど、いささか私の言葉に満足を感じた風でもあった。

『よろしゅうございます――私、預かっておきます』

『どこでも、普通のところであったら、私などはもちろんのこと、妹にも往生させるつもりですから――』

私は翌日も滞在して、また海へ鯛釣りに行った。船頭は、いつもの仲造といった三十前後の腕達者である。沖へ出て、陸の方を望むと、房総半島の山々を包む緑の林が色濃く昼の太陽に映し浮いている。浜辺の家並みも、微かに糸に揺れて和やかな風景である。