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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

しばらく待つと、黄筋入黒塗りの椀が運ばれてきた。なかは信州味噌を漉した味噌汁である。不躾けながら箸のさきで椀のなかを掻きまわしてみた。さつま芋の賽の目に切ったものが、菜味としてふんだんに入っている。狸はどこにいるやと、なお丹念に掻きまわしたが、狸肉らしいものがでてこない。それでも諦めずにやっていると椀の底の方から、長さ曲尺にして五分、太さは耳かきの棒ほどの肉片が二筋でてきた。これ即ち、今晩の呼び物であったかと推察し、箸につまんで口中へ放り込み、つぶさに奥歯と舌端で耽味したのであったが、これはまたほんとうに何の味も素っ気もないものであった。だし汁を取るとき、煮だした鶏骨に僅かにしがみついている肉滓に似て、それよりも無味である。あたかも、誤って汁のなかへ混入した木片を噛むようなものであった。果たして、これが狸肉であるかどうか知らない。かりにこれが狸肉であったにしたところで、こうまで煮だしてあくを抜き、狸の特徴とするところの土臭を去ってしまっては、なんの変哲もない汁ではないかと思う。

とうとう、してやられた。だが、相手が瓢軽洒脱、甚だ愛敬のある狸であってみれば腹もたつまい。