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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
慧鶴青年はその場で頁を開けて熱心に読み入った。
まだ、この書を読まない人の為にちょっと解説すると、この書は仏典や禅書から、いわゆる悟りの為になることや修業者の策励になることが、抜萃してある仏教の金言警句集とでもいったような性質の書物である。
いま慧鶴青年は、それを読んで行って、渇く人が水を得たように眼を離せなくなった。そして清水禅叢で失ったあの時代離れのした原始的な慾望を再び取り戻した。わけて慧鶴青年を緊く初一念に引戻した書中の事蹟は何かというと慈明和尚引錐自刺の条であったという。その条はどういうのかといえば慈明という僧が徹夜で座禅工夫中に、しきりに眠気がさして来て堪えられない。そこで錐を用意して置いて眠気を催す度に膝を刺して眼を醒すようにしたという事蹟であった。ここでひょっと、気がつくことは、慧鶴が宗教によって救われ度いと僧になった原因は何かといえば、彼の現実の肉体を苦痛や滅亡から救い度いという慾望からであった。そして彼はその肉体を錐で刺す苦痛によって修道の妨げを除く僧の事蹟に感奮している。これでは、彼の慾望と手段との間に矛盾があるようだが、それは別問題として彼の性格がどこまでも肉体や感覚に即して悩み、求め感じていることは、特色であるらしい。