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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
破れ寺ではあるが一通りの勤めはしなければならないし、掃除から台所の支度、それに馬翁の身の廻りの面倒までもみなければならなかった。たまには行乞にも行かなければならない。折角思い立った座禅思惟を取られて思うように運ばなくなった。慧鶴はそれでも辛抱した。どうも馬翁という老人の様子をみると朋輩のいったように必ずしもわが儘ばかりの人物ではなさそうだ。多少誇張して勝手気儘をして見せている様子がある。人より一段上の自由なものを老人は得て居るらしくはあるが、そこにゆったりと納り込んで独で楽しんでいられるほどその自由に自信と幅を持っていないらしい。はたの普通平凡な人間を見るとそれ等と自分との距てが際立って痛感され、孤独の寂しみに堪え兼ねるらしい。けれども自分の方から凡俗に降って膝を交えることは、とても出来悪い性分なので、自分の自由をはたにひけらかし、また他を罵詈呵責してはたのものに何等かのショックを与えることの上に人間との交渉を保って行こうと馬翁の無意識が努めるらしい。馬翁が凡人普通に交っているとき、いかにも悲しく退屈そうな顔をして居り、軒昂として自分を立て、周囲を悪罵するときにどんなに満足と親しさを彼の表情の下に隠しているか見れば判る。