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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
翌日の朝の八時頃、車軸の轟くような音がすると間もなく、富士の裾野の印野村の上の木山と砂山の境のところから、むらむらと太い煙の渦巻が立昇った。同時に雷の落ちる激しい音が聞えた。煙の渦巻は一日続いた。
夕暮から夜になると、それがすっかり焔に見え、その火焔の渦巻の中に鞠の形をした白いものと、火焔よりも光る火の玉とを絶え間なく天へ弾ね上げていた。あたり一面は明るくて昼のようだった。噴き出た火焔の末は黒煙となって東の方へ押し流れて行った。その雲の中にも雷が起って稲妻が頻りに四方に走った。稲妻は火の口より噴上る火焔と連って綾手の網になったりした。手前の小さい愛鷹山が影絵になって輪廓を刻んで見せた。
十一月十日の朝、地震と共にどこともなく鳴動が聞えて来る時分から、寺の縁に坐禅を組みつつあった慧鶴には、いよいよ只ならぬ気配が感ぜられた。苦しみといえばこんな苦しみはなかった。まるでいのちを支えたものを、すっかりぎ取られてしまいそうな絶望的な恐怖だった。鋭い怯えがたびたび来て、あわや叫び声を出しそうだった。しばしば凡情に立返りかけて見栄も外聞もなく四つ匍いになって世界の果まで逃げ出し度くなった。