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ほうえいふんか
宝永噴火
岡本 かの子
「文学界」1940(昭和15)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页
それでも咳は出た。七兵衛が来ての話では、灰は須走村が一番ひどくて一丈三尺にも及び、それより平地に近い御殿場、仁杉村、東はみくりやから足柄辺は三四尺ということである。誰一人として表へ出るものはない。ただ飛脚が街道筋を灰煙りを蹴上げて規則正しく行き交わすだけだ。灰は江戸まで降り、市中は大騒ぎをしているそうだ。
二十七日の夜中から煙の出ようが薄くなったように見えた。慧鶴は自分の気のせいかと思ったが、灰の降りも少くなったらしく、そろそろ人が出だして、寺の垣外を通る話声にもそのようなことを話し合っている。慧鶴は油断はすまいと弛む心を引締めているつもりでも、どことなく、やれ安心、早く災難から脱れ度いという気持が湧き出して来た。われながら意気地なしと思いながら、どうしようもなかった。煙は一日一日と薄らいで来て、月を越えた十二月のはじめには僅かばかりの噴上げ方となった。人々はもう大丈夫なのかと恐る恐る住居の掃除なぞに取かかり始めたが八日の晩から、また噴火は激しくなって再び人々を縮み上らした。慧鶴ももう一度覚悟しなければならなくなった。だが、そのときは早や身体も心もへとへとになって、ぼんやりした気持で、ただ成行きに任せるより仕方がないという諦らめだけだった。