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みのるさんのせいしんぶんせき

実さんの精神分析

夢野 久作

「喜多」1932(昭和7)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,886 字 · 10 页

青空文庫

そうしてその上にその上にと自分の尻ベタに鞭打っている。家元としてコレ位出来ていればまず……なんて考え方は毛頭ない。しかも実さんの舞台上の妖気はそこから生まれて来るのだ。

実さんは「僕から能を除けばゼロだ。今に能では喰えなくなる時代が来たとしても仕方がない。ほかの事はやる気がしないからね」と淋しそうに言う。しかも内心は安心し切っているらしいので、死ぬまで謡いそうな決心がほの見える。そこに実さんの舞台上の妖気が生まれる第一の根本原因がある。

そんな気持だから実さんは毎日毎日寝ても醒めても自分の尻をタタイて、能の世界の奥へ奥へと盲進していなければ生きていられない。その結果、見物の批評とか、家元としての資格とか言ったような、世間的、もしくは人間的な研究の対照標準をトックの昔に超越してしまっている。そうしてこの頃では芸術とか非芸術とか言ったような相対的な批判区域までも一気に駈け抜けて、一望漠々たる砂漠を息のあらん限り走っては倒れ、倒れてはよろめき走りしているように見える。甚だ想像を逞しくした言い現わし方であるが、実さんの芸を見ているとソンナ気がするから仕方がない。