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きゃくぎらい

客ぎらい

谷崎 潤一郎

「文学の世界」1948(昭和23)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,162 字 · 14 页

青空文庫

事実最初のうちはそうだったのであるが、何事も用いる度数が少くなればだん/\機能が衰えるもので、いつか私はほんとうに話下手になり、昔のようにしゃべってやろうと思ってもしゃべれなくなってしまい、そうすると又しゃべることに興味も持たなくなってしまった。かくて六十三歳の今日では、交際嫌いと無口の癖がいよ/\ひどくなって来て、自分でも折々持て餘すくらいになったのである。無口と云う点では吉井勇の方が或は上かも知れないが、吉井はそう云っても交際嫌いではなく、口数は少くても絶えずニコ/\していて愛嬌があるが、私は気に入らないと直ぐにそれを顔に出し、退屈すれば人前であくびでも何でもする。たゞ酒に酔うといくらかおしゃべりがしたくなるが、でもしゃべり出して見ると、到底昔のように滾々とは言葉が湧いて来ないので、結局平素より多少饒舌になり、声の調子が高くなると云う程度にしかなれない。されば現在の私に取って、日常生活の中で何が一番辛いことかと云えば、訪客の相手をすることなのである。辛くても意義のあることなら堪え忍ばなくてはならないが、前述の如く孤立主義を信条としている私は、会いたい時に、会いたい人に、此方が満足する時間だけ会えたらよい、その他の人には出来るだけ会わない方がよい、と云う考えなのであるから、かような男を訪問する人は気の毒