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よい(ひとまく)
宵(一幕)
宮本 百合子
「女性日本人」1921(大正10)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,834 字 · 18 页
もう少し足しましょうか?
良 三 結構だよ。有難う、お前もおあがりな、まあそう気を揉むなよ。
やす子 (笑う)気なんか揉みゃしませんわ、だけれど、どうかと思って……
二人とも黙って箸を運ぶ、平和な静けさ。突然、
やす子 ああ、忘れていた!(と云いながら良人の顔を見る。)先刻ね、津本さんからお電話が掛りましてよ。
良 三 ほう何だッて?
やす子 矢張りいつものお嬢さんのこと。二三日前からどうも工合がよくないから、今夜でも来てくれっておっしゃるの。だけれども、まだお帰りがなかったから、とにかく御用の趣だけは申し伝えます、と云って置きましたわ……(一種の表情)それにしてもまああのお家じゃあ、よくお嬢さんに病気許りさせていらっしゃるのね、先月だってどこか苦情がおありになったんでしょう?
良 三 可哀そうに。まさか病気を「させ」る積りじゃああるまいが――とにかく弱いことは弱いね。
やす子 でも、私あの方のお家を見ると、ただ生れつき弱いからという許りじゃあないように思えますわ。おかあさまなんか、まるで家に落付いていらっしゃらないんですもの。いつだって、熱度の計りようも知らないような女中だか家庭教師だか見たいな人ばかり、電話に出るんですのよ。