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ずいひつ よせばやし

寄席囃子 正岡容寄席随筆集

正岡 容

正岡容『寄席囃子 正岡容寄席随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:随筆 寄席囃子、艶色落語講談鑑賞、随筆 寄席風俗、寄席行灯、わが寄席青春録。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,259 字 · 222 页

青空文庫

ついでにこの日、小さんは何を演ったか忘れた。圓右が「業平文治」だった。文字花が「戻り橋」を一段語った。右女助も若手で目をパチパチと「六文銭」を聴かせてくれた。

思い出の、第三。

立花家橘之助は、今も六十近くをあの絶妙な浮世節の撥さばきに、さびしく薬指の指輪をかがやかせているであろうか? その頃(震災の二年ほど前)橘之助は、小綺麗な女中をつかって、四谷の左門町に二階を借りていた。

あたしは、その頃、鴉鳴く秋のたそがれ、橘之助自身から、そのかみの伊藤博文と彼の女にまつわる、あやしい挿話をきかせてもらったことがある。

橘之助は、博文公と、かなり、前から深い知り合いだったものらしい。で、公がハルピンへゆかれるときもその送別の席上、

「今度、俺が帰ってきたら、有楽座のようなボードビルを建ててやるから、自重して、そこへお前は年に二回くらい出るようにしろ」

と、公は言われた。

「御前、それは、ほんとうですか」

橘之助は、夢かとよろこんで、公をハルピンへ発たせたが、それから数カ月、ある夜、人形町の末広がふりだしで、橘之助高座へ上がると三味が鳴らない。ぺんとも、つんとも、まるで、鳴らない。