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ずいひつ よせばやし
寄席囃子 正岡容寄席随筆集
正岡 容
正岡容『寄席囃子 正岡容寄席随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:随筆 寄席囃子、艶色落語講談鑑賞、随筆 寄席風俗、寄席行灯、わが寄席青春録。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,259 字 · 222 页
その理由はかつて「下町育ち」という小説の中で書いたからここではいわない。ただそのおしまいまでプラトニックであったため、かえってつい十年ちかくまで不忘の幻になって目先に蘇り、私の半生を苦しめぬいて困った。後年、柳家三亀松が宝塚のスターを女房にしたと聞き、かりそめにも「新婚箱根の一夜」居士などに惚れる宝塚少女があるのに、この自分が掌中の白珠をむざむざ喪失するなどは何ごとぞと、文字どおり私は全身の血の冷え返るのを覚えたくらいだった。話が前後するが、私の宝塚の彼女は、その三代目小さんを聴いた翌年九月、休暇を取ってはるばる上京してきた。私はその頃好きでもあり別懇でもあった先々代林家正蔵に頼んで、もし私が情人と君を聴きに行ったらぜひぜひその晩は十八番の「居残り佐平次」を演ってくれと言ったものだったが、その晩は彼女の主張で築地小劇場へ、ゲオルグカイゼルの作だったろうか、当時流行していた表現派戯曲「瓦斯」の方を見物に行ったので、ついに正蔵を聴くの一夜を共有することはできなかった。小劇場の帰り月淡き震災後二年の築地河岸で、私たちは幾度か熱いくちづけを交わした……。