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ずいひつ よせばやし

寄席囃子 正岡容寄席随筆集

正岡 容

正岡容『寄席囃子 正岡容寄席随筆集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:随筆 寄席囃子、艶色落語講談鑑賞、随筆 寄席風俗、寄席行灯、わが寄席青春録。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,259 字 · 222 页

青空文庫

だろう。

さてその日本太郎が松葉とかいう色の黒い馬面の女とつるみ高座でそののち睦の寄席へ現れ出したと思ったら間もなく消えて、震災の翌年の九月には、牛込肴町の柳水亭という端席へ、独演会の看板を上げた。ひどい晩夏の土砂降りの晩だったが、私はいそいそ聴きに出かけた。白状してしまうが、この、いそいそは単に日本太郎聴きたさのためばかりじゃなかった。

じつはその頃婚約していた宝塚のある女優さん(レビューガールの語はまだ日本にはなかった!)がやっと数日の休暇をみつけて(私の方からはしじゅう上方まで逢いに行っていたが)明日は上京してくるという、すなわちその前夜だった喜びもなかなかに手伝っていたにちがいない。その興奮の対象にされた日本太郎こそまことにいい面の皮だったともいえようし、ためにお客一人増えたのだとすればまんざらでもなかったのだともまたいえよう。柳水亭はその後、勝岡演芸場となって晩年の若水美登里などの安芝居の定席となり、のち東宝系の映画小屋となってしまったが、電車道に沿って二階いっぱいに客席のある寂しい小屋だった。かてて加えてひどい大雨の晩だったので、お客はせいぜい二十何人くらいしか来ていなかった。