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ふじ

富士

岡本 かの子

「文芸」1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 页

青空文庫

「これは何ということだ。上には上があるものだ」

翁は人の世の言葉ではじめてこういった。物の絶大の量と絶大の積は説明なくしてそれが一つの力強い思想として影響するものであることを翁は悟らせられた。

「負けたよ」

翁はこうもいった。

山と山神とは性格も容貌も二つに分つべからざる関係を持つことは翁が西国の諸山に間配って諸山の山神に仕立てた自分の子供たちによって知れるところのものである。この山の岳神となったわが娘福慈神の性格が果してこの山の如くならば、自分がこの娘に対して抱く考えも気持もまるで見当外れである。およそ桁が違っていよう。そしてまた西国の諸山と諸山に間配った自分の子どもたちの性格はおよそ山の祖神自身の性格の中に在るものであり、たとえ無かったものにしろそれは新に嚥み入れて自分の性格の複雑さを増し得た程度の積量のものであった。それゆえ自分はかれ等を分身と思い做され、総ての上に臨んで自分は山の祖神であったのだが、いまこの山の娘の神に向ってはまるでそういうこともそうすることも覚束なくも思われる。

「この山は嚥み切れない。もしもそうしたなら、自分の性格の腹の皮の方が裂けよう」