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ふじ

富士

岡本 かの子

「文芸」1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 页

青空文庫

と、探し求めた。

水無瀬はその弟妹の中の上の弟を語って、三月の行糧を、山の窟に蓄えた。姉の確りしたところで、いつも気を引立てられている勝気にも性の弱い弟は、この秘密で冒険な行旅を、姉の敢行力の庇に在って、共々、行い味われたので、一も二もなく賛成した。

さしむかう鹿島の崎に霞たなびき初め、若草の妻たちが、麓の野に莪蒿摘みて煮る煙が立つ頃となった。女は弟を伴ってひそかに旅立った。うち拓けた常識の国から、未萌の神秘の国へ探り入る気ずつなさはあったが――

甲斐々々しくとも足弱の女の旅のことである。女が駿河路にかかったときには花後の樗の空に、ほととぎす鳴きわたり、摺らずとも草あやめの色は、裳に露で染った。

近づくにつれ、いよいよ驚かれるのは伯母の領く福慈岳の姿である。姪の女はただ圧倒された。これがわが肉体の繋りかよ。しかもこのものに向って、争おうと蓄えて来た胸の中のものなぞは、あまりに卑小な感じがして、今更に恥入るばかりであった。この儘に帰ろうか。それも本意ない。うち出して会おうとするには、すでに胸中見透されている気がして逡巡まれた。願ぎかくるは伯母のまにまにである。