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てらだとらひこのついそう

寺田寅彦の追想

中谷 宇吉郎

「寺田寅彦の追想」甲文社、1947(昭和22)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,683 字 · 40 页

青空文庫

二年生の実験は、一月か二月で一題目を終え、次の先生の実験へ廻されることになっていた。それで寺田先生の指導を受ける実験は、これでおしまいになったわけである。先生の気象学の講義や演習は、三年生がきくことになっていたので、本来ならばこれで当分先生とは縁が切れたわけである。ところが、この年の暮にニュートン祭の幹事をつとめたことが機縁になって、曙町の先生のお宅へ時々遊びに行くことになった。その機縁というのは、『先生を囲る話』に書いたような話なのである。この年即ち大正十二年には、九月一日にあの関東大地震があり、震災に伴った大火で、私の家は全焼した。そしてようやくにして持ち逃げた風呂敷包み一つだけが、全財産として残された。参考書は勿論学校のノートまで殆んど全部焼いてしまった。一時は大学を中止するつもりになって、郷里へ帰っていたのであるが、二カ月ばかり休んでいるうちに、また気を取り直して東京へ戻って来た。大学も十一月に入ってようやく開かれ、一応は落着いた形になったのであるが、物心両方面の打撃によって、気持はなかなか落着かず、いろいろと迷い悩む日が多かった。そういう時に、先生と個人的な接触に恵まれたことは、私にとって非常に幸運な巡り合わせであった。