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しょうぎのおに

将棋の鬼

坂口 安吾

「オール読物 第三巻第四号」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,311 字 · 9 页

青空文庫

それを見て、升田の将棋もハッタリだと思うのが、間違いの元である。

もっとも、升田の将棋もハッタリになる危険はある。慢心すると、そうなる。私は現に見たのである。

昨年の十二月八日、名古屋で、木村升田三番勝負の第一回戦があって、私も観戦に招かれた。

私が升田八段に会ったのは、この時がはじまりであった。

手合いの前夜、新聞社の宴席へ招かれた。広間に三つテーブルをおく。三つ並べるのじゃなくて、マンナカへ一つ、両端へ各々一つずつ、離せるだけ離しておいてある。

これは新東海という新聞社の深謀遠慮で、木村と升田は勝負仇、両々深く敵意をいだいている、同じテーブルに顔を合しては、ケンカにでもなっては大変だという、銀行や一般会社じゃ、こんなことまで頭がまわらぬ。新聞社雑誌社というものは、御本人も年中酔っぱらってケンカしているものだから、こういうところは行届いたものである。

私と升田は同じテーブルで、こゝは飲み助だけ集る。升田は相当の酒量である。私はウイスキーを一本ポケットへ入れて東京を出発した。升田と私がこれをあけて、升田はそれから、かなり日本酒も呷ったようだ。

私は酔っ払うと、アジル名人なのである。