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しょうぎのおに

将棋の鬼

坂口 安吾

「オール読物 第三巻第四号」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,311 字 · 9 页

青空文庫

こっちが何時間と考えて指すのに、ヘタの考え休むに似たりと間髪を入れずヒョイとさゝれる、からかわれているようで、腹が立つものだそうであるが、昔は木村前名人がこの手が得意で、相手にムカッ腹を立てさせたものだそうだ。升田八段にオカブをとられて、何を小癪な、とやり返す。将棋だからバタバタバタと手と手がもつれてコマが動くけれども、ケンカならパチパチパチと横ッ面をひっぱたき合ったところだ。

このアゲクが、大事の急所で慎重な読みを欠き、升田ついに完敗を見るに至ったが、誤算に気付いた升田の狼狽、サッと青ざめ、ソンナお手々がありましたか、軽率のソシリまぬかれず、これは詰みがありますか、ガク然として、自然にもれる呟き、こうなると、相撲と同じようにカラダで将棋をさしてるようなもの、ハッとかゞみ、又、ネジ曲げ、ネジ起し、ウヽと唸り、やられましたか、と呻き、全身全霊の大苦悶、三十一分。勝負というものは凄惨なものである。

将棋までハッタリで指しては負けるのは仕方がない。升田のためには良い教訓であったろう。

升田は木村将棋の弱点を省察して、勝負の本質をさとったのであるが、木村という人が又、元来は骨の髄からの勝負師で、彼が今日、新人として出発する立場にあれば、升田と同じ棋理によって出発したに相違ない。